貿易赤字と産業構造の変化

 輸入額が輸出額を上回る貿易赤字がこの7月まで25カ月連続となり、過去最長を更新しました。円安で火力発電に使う原油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が膨らむ一方、円安が追い風になるはずの輸出額が伸び悩んでいるためです。輸出が伸びない背景には日本企業が「輸出頼み」のビジネスモデルからの転換を図っていることがある様です。

8年前と比較して、輸出が減少しているのは、パソコン等の電算機類が60.3%減、電気機器が20.7%減、自動車が4.1%減となっていて、逆に輸入が増加しているのは、原油等の鉱物性燃料が53.4%増、化学製品が56.7%増、そして中国からの携帯電話等の通信機が5.4倍となっています。

貿易収支は赤字になっていますが、自動車や電機などメーカー各社の利益は伸びています。これは、かつては国内から最終製品を輸出して「貿易立国」を支えていた自動車、電機などの企業の稼ぎ方が最近変わったためです。

かつて輸出の主役であったテレビに関しては、日本の家電メーカーは国内でのテレビ生産はほとんどやめてしまっています。各社は1ドル=75円台の超円高に苦しんだ経験から、海外での生産を増やした企業が多く、国内生産を増やす動きは少ない状況になっています。

好業績の続く自動車業界では、いまも国内で作る車の半分を海外に輸出していますが、「次の円高に備える」ために、国内の工場を増強しようという動きはほとんどなく、人口減少で日本市場は縮小が見込まれるという側面もあって、むしろ輸出していた車を海外生産に切り替える動きが活発になっています。

貿易赤字も問題ですが、産業構造が国内で生産したものを海外へ輸出するという構造から、海外で現地生産する構造に変化することで、国内での生産が少なくなり雇用の場が減少することが心配されます。現に工場を海外に移転するために早期退職の募集が行われていて、再就職先を求める中高年求職者が多数いるのも現実となっています。

藤木

女性管理職を増やす:世論調査

 朝日新聞社が実施した全国世論調査で、安倍首相が「女性の活用」を打ち出す目標や政策について調査しています。「指導的地位にある女性を2020年に30%にする」という政府目標について4択で聞いたところ、「賛成」は「強く賛成」26%、「やや賛成」53%をあわせて「賛成」が79%となりました。

また、女性が上司になることへの抵抗も、「ない」が82%となっており、女性が指導的地位に立つことについて、自然なこととして受け止めている様子がうかがえ、社会全体として推進に賛成のようです。

一方、指導的地位にある女性を増やそうとするときに、「何が一番大きな問題になるか」を調査したところ、「家庭と仕事の両立」と答えた人は46%。「個人の意欲や適性」28%、「会社の姿勢」22%でした。

この質問に対する回答を男女別に見ますと、男性では「家庭と仕事の両立」38%、「個人の意欲や適性」33%、「会社の姿勢」24%と分散しているのに対し、女性は「家庭と仕事の両立」が52%で、「個人の意欲や適性」「会社の姿勢」はそれぞれ2割ほどとなっており、女性が管理職を目指すうえで女性自身が「家庭と仕事の両立」を重い課題として受け止めている様子が浮かび上がってきています。

また、安倍首相の女性の活用を掲げている政策が、女性にとって働きやすい社会の実現につながると思いますかという質問に対しては、「実現につながる」 が38%、「そうは思わない」が44%となっており、あまり期待されていないようです。

これは、保育所の問題等の現実の課題が解決できていないためと思われます。「家庭と仕事の両立」のためには会社と家庭の両方の理解、協力も必要ですが、様々な制度、施設等の整備によるバックアップの充実が必要と思われます。

藤木

転職を考えるとき、決意するとき

 大手の人材紹介会社が転職希望の登録者にアンケート調査した結果によりますと、転職を考えるきかっけとして上位に挙がったのは、「仕事の幅を広げたかったから」(46.7%)、「会社の将来性に不安を感じたから」(44.7%)、「年収・待遇面を向上させたかったから」(35.0%)、「やりたい仕事が別にあったから」(17.6%)となっています。また、転職を決意するきっかけも率は異なりますが同じ順位になっています。

これを2年前と比較すると、20代、30代では、「年収・待遇面を向上させたかったから」「会社の将来性に不安を感じたから」が比率として高くなっており、逆に比率として下がっている項目は「評価への不満を感じたから」「やりたい仕事が別にあったから」で、不満要素よりも、よりよい環境を求めての転職を検討している方が多くなっていることが伺えます。

また、40代では、比率として高くなっているのは、「仕事の幅を広げたかったから」「年収・待遇面を向上させたかったから」で、逆に比率として下がっているのは「会社都合」「人間関係」で、よりよい環境を求めての転職を検討している方が他の世代と同様多くなっていることが伺えます。

その一方、どの世代でも「会社都合」の項目は下がっていますが「会社の将来性に不安を感じたから」が上位となっています。景気が回復しているとはいえ、この点は世代、時期によらず転職を考える上で影響を与える項目とおもわれます。

転職を考えるきっかけは、その人その人で異なります。転職を成功させるには、なぜ転職を考えているかを明確にして転職によって何を獲得し、達成したいのかという目標を持つことが大切と思います。転職をお考えの方は是非その点を良くお考え頂ければと思っています。

藤木

国内総生産(GDP)の成長率の低下

 内閣府が発表した4~6月期の国内総生産(GDP)の成長率は東日本大震災があった2011年1~3月期(年率6・9%減)以来の下げ幅の前期比6・8%減でマイナス成長となりました。

原因は、消費税増税前の駆け込み消費のため、1~3月期の成長率が年率6・1%と伸びた反動とみられ、ある程度予想されていました。

政府は1~3月期と4~6月期の実質GDPの平均は昨年10~12月期を上回っていて過度に悲観する必要はないだろうとしております。また、エコノミストは、雇用・所得環境が改善し消費者心理も上向いていることや、企業が今年度に高水準の設備投資を計画しているなど先行きの好材料は多いとして、7~9月期に4%程度のプラス成長に戻ると予想しています。

しかし、消費が戻るかは予断を許さないとする意見もあり、サラリーマンなどの賃金水準を表す雇用者報酬は4~6月期の実質で前期比1・8%減となっており消費意欲が高まらないのではという意見もあります。

消費の回復がもたつけば、成長軌道は描けなくなり、安倍政権が7~9月期の成長率をみて来秋の税率10%への再引き上げを実施するかを決める考えなので、今後の回復が注目されることになると思われます。

藤木

賃上げと最低賃金

 安倍政権の主導で行われた今年の春闘で大手企業の正社員は賃上げが進みましたが、労働組合に加盟していない非正社員にとっては、最低賃金が生活の底上げにつながります。安倍政権は2年続けて成長戦略最低賃金を上げる方針を明記しており、田村厚生労働相は会見で「昨年並みか、それより良い成果を」と、全国平均15円増だった昨年以上の増額をめざす方針を示しています。

企業の人手不足の目安となる有効求人倍率は5月に1・09倍と約22年ぶりの水準に達していて、最低賃金の大幅引き上げの環境が整ってきたとの判断での発言と思われます。一方、最低賃金の最も低い地方の経営者は「地方にアベノミクスの実感はまだない。去年のような急激な引き上げは厳しい」と話していますし、中小企業の経営者も物価高で仕入れ値や燃料代が上がり負担感が増しているとして慎重な態度を示しています。

最低賃金は、これより低いお金で働かせると違法になる金額で、最低の「664円」の県は、宮崎、大分、島根、高知、佐賀、長崎、熊本、沖縄等で、最も高い869円の東京とは205円、全国平均の764円とも100円の開きがあります。最低賃金については「そもそも水準が低すぎる」との指摘もあり、「働くより、生活保護を受けた方がまし」という方もいます。最低限の生活を守るためにも最低賃金を上げることは重要な指標ですので、注目していきたいと思います。

藤木

女性管理職を増やす

 女性の管理職を増やすため、数値目標を導入する企業が増えてきています。国際化に向けて多様な人材は不可欠で、安倍政権成長戦略の中で女性の活躍を掲げて後押ししています。

安倍政権は中央省庁の幹部人事のなかで、法務省経済産業省で初めて女性を局長に起用するなど「女性の活躍支援」を進めていこうとしています。今回の人事で対象となった11府省庁のうち、法務、経済産業、外務、厚生労働の4省で女性を局長に任命し、約210の幹部ポスト全体で15人を登用し、現状の8人から倍増させました。

企業においても、女性の積極的な登用を社内に意識させるために、女性管理職の数値目標を導入しようとしています。これは、政府が成長戦略で20年までに3割に増やす目標を掲げたことも追い風となっているようです。

日立は昨春、2020年度までに8年かけて、国内を中心に女性管理職を2・5倍の1千人に増やす目標を発表しました。中西宏明会長は「グローバル化を進めるには、文化習慣や国籍の壁を乗り越える必要があり、女性の登用はその第一歩」と話しています。三菱重工業は、20年までに管理職に就く女性を今の3倍の約250人に増やす目標を発表し、ソニーの女性管理職は現在約5%。昨年初めて20年までに15%に引き上げる目標を打ち出して、管理職を目指す女性を増やすための「リーダー塾」も結成しています。

一方、先行して数値目標を導入した企業では、成果も出ています。資生堂では、目標を掲げた05年に11・7%だった比率が13年度末には倍以上の26・8%まで上がっています。また、日産自動車も04年に女性を生かす組織を立ち上げて以降、女性管理職の比率は約4倍になっており、カルロス・ゴーン社長は、女性管理職について「会社の競争力を高め、市場や顧客に対応するために必要だ」と語っています。

このように、企業が女性管理職の数値目標を決めて、その実現を目指して活動していく中で、女性の働き易い環境が作られていくことに期待したいと思います。

藤木

賃上げと景気回復

 連合が3日まとめた今春闘の最終集計結果によると、定期昇給分を含む賃上げ率は2・07%と15年ぶりに2%台にのせました。今春闘では、円安による企業業績が回復したことに加え、安倍政権が企業に賃上げを促したこともあって、大企業が相次ぎベアに応じたためと思われます。

今回の賃上げは、大企業だけではなく中小企業でも、賃上げ率が1・76%と、前年を0・23ポイント上回っていますが、やはり大企業には及ばない状況です。また、非正社員の時給は組合員平均で11・64円増と、前年比0・06円とわずかな伸びにとどまっています。

問題はありますが賃上げは望ましいことで、賃上げが消費意欲の向上に結びつくことで景気が回復し、これがさらに賃上げにつながるという好循環が継続することが最も望ましい状況と思います。

しかし、これに水を差しているのが消費税率の3%アップのようです。日銀の短観では企業の景況感は1年半ぶりに悪化していて、これは増税の影響が長引くのを心配する企業が多いことを表しており、家庭が財布のひもを引き締め続けているため、期待している「夏の景気回復」はまだ見通せないと企業は感じている様です。

折角の賃上げが、景気回復に結びつくような施策を考えないといけないと思われます。消費者の将来にする不安感を解消し、賃上げした分を安心して使えるように、年金等の社会保障制度を示すことも一つの方法と思います。

 

藤木